■9/25 「美の巨人たち」
田辺千代の研究により発見された青森の小川三知物件!?果たして現存するのか?
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■17.6.6 三知作品発見!
栃木県桐生市の旧家にて、三知日記より現存する作品を確認しました。桐生タイムス6/4夕刊に掲載されました。 |

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田辺:
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これはすごいわね。 |
S: |
はい、すごいですね。 |
助手: |
すごいですねえ。 |
田辺: |
いかにも三知さんらしい絵ね。これは。でもどこかの風景かしら。 |
M氏: |
これは十三潟(*1)の風景なんですよ。 |
田辺: |
なるほど、当時の十三湖の風景なんですね。ちゃんとM家の資料に残っていたんですね。三知さんは松とか帆船とかをよくモチーフにしているのよね。(*2)それが後に各地に広まったんだけど、最初は三知さんよ。
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助手: |
それにしてもこの松の表現はすごく凝ってて精巧ですね。そうとう思い入れでもあったんでしょうね。 |
田辺: |
ちょっと助手くん、裏見て!すごいわよ!(といつのまにか裏に回っていた田辺さん)(*3)
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田辺:

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これよ!これが三知さんが紹介しているラファージの技法(*4)だわ。ガラスを二重にも3重にも重ねて、微妙な色を出すのね。だから、ラファージのステンドグラスは平らじゃなくて、裏が凸凹しているの。
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助手:
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じゃ、もう一度表から見てみましょうか。
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助手:
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まず写真のAの部分(空の青)とBの部分(湖の色)を比べてみてください。 |
S: |
空の色よりも湖の色の方が緑っぽい・・・ですよね。 |
田辺: |
そうね。下の部分は言われてみると少し緑っぽいわね。 |
助手:
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この2つの部分は同じ色で同じ型番のオパールセントグラスです。アメリカのココモ(*5)ですね。 |
S: |
え、え、そうなんですか? |
助手:

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先ほど田辺さんの話にあったラファージ工法ですね。裏から見ると、湖の部分は二重になっていて、裏には淡色のグリーンアンバーのハンマードグラス(*6)が重なってます。
水の色って、元々無色透明なんですけど、空の色が写るんですよ。(*7)
裏にハンマードグラスが重なっているんですが、ちょっと近くで斜めから光を通して見てみてください。
(このステンドグラスに関しては、細かいところまでよく見てもらいたいので、大きな写真が多くなってしまいましたがご了承下さい。)
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田辺: |
空と同じガラスなのに、湖の方は裏のハンマードグラスのテクスチャが写って、ちょうど小波のように見える。
三知さんは、十三潟を見てこれを表現したのね。
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助手: |
こんなガラスはありませんから、1枚だけで表現するのは無理ですからね。 |
S: |
言われてみればそう見えますよね。すごい!感動します! |
助手: |
(照) |
S: |
三知さんにですよ。 |
助手: |
太陽が反射して水面が緑色に見える時間。色温度(*8)でいうと、3〜4000ケルビンぐらいの太陽光線でしょうか。僕は夕方前のまだ太陽が黄色いあたりの時間ぐらいじゃないかと思います。
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田辺:
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さすが三知さんよね。そこが当時の他のステンドグラス工房のデザインと違うところなのね。アメリカで色んなものを見て経験して吸収したからこそね。宇野澤の作品でもたまにみかけるこの重ねてる技法は、三知さんから広まったものなのね。 |
助手: |
帆の部分もそうですね。
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↑表
帆にロープが透けて見える
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↑裏
(緑の部分に見えるボツボツした裏面のテクスチャがハンマードグラス。)
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助手: |
帆というのは、裏からロープで張りますよね。表から見ると、帆に透けて見える。と説明されれば、そう見えてきませんか? |
S:
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はい、見えます見えます!すごく細かいことまでやってますね! |
田辺: |
だから帆の裏は透明のキャセドラルグラスが二重に重なって、その透明ガラスが鉛線で繋いであったのね。
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助手: |
そうでしょうね。光が入ることを意識しての演出でしょう。 |
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田辺: |
技法も然ることながら、この松なんて見て。すごい精巧よね。この辺はすごくティファニーに影響されてる所よね。それに増して、三知さんの日本画、特に水墨画のような流れるような線。ガラスの選び方で、こんなに針葉樹の松の葉に見えるもんね。 |
助手:
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松の葉のガラスはココモのグラニティ(*9)ですね。 |
田辺: |
それにしても、日本でここまで細かい表現をしたステンドグラスって少ないわよね。
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助手: |
見たことありませんね。
ただ言えるのは、注文主の宮越氏が小川三知の価値を認めて、三知もそれに応えた、ということだったと思います。注文主が三知を理解したからこそ、作り手もそれに応え、力を発揮できた。宮越氏とは、相当波長が合ったんでしょうね。東京と青森という距離で、しかも郵便で限られた打ち合わせの中で、これだけのものを理解し、最大限に応えている。小川三知という人はすごいですよ。
作り手は注文主によって育てられます。僕もいつか、こんなものが作れたらいいです。 |
S: |
それは番組制作も一緒ですよ。助手さん、がんばりましょうよ! |
助手: |
よーし!いっちょやるか!(意味不明) |

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田辺: |
宮越さん、ほかにステンドグラスありませんでしたか?例えばお風呂場とか洗面所とかに。
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宮越氏: |
裏のお風呂場にありますよ。もうしばらく使ってませんけど。 |
田辺: |
やっぱりありましたか!そうそう、この三知さんの日記に書いてあるのよね。早速見せて頂きましょうよ。 |
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◎Sさんプロフィール・・・
番組制作会社のスタッフで下っ端。と本人は語るが、美の巨人のスタッフロールでは、最後の方に「演出 S」と大きく一人で出てくるのが、助手はとても気になる。某番組で田辺さんと知り合い、今回、美の巨人でもまたコンビを組む。
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◎助手プロフィール・・・
とある都内のステンドグラス屋で働く職人。 とある修復工事で田辺氏と知り合い、いつのまにか意気投合してしまうお調子者。ついでに対談や探訪にまでくっついていく始末。本業の合間にこのホームページを作っている模様だが、ステンドグラスはいつ作っているんだろうか!?
田辺氏とのコンビでは主に技術面をするどく?突く。
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◎青森県 宮越邸 |
田辺の調査で発見された小川三知オリジナルのステンドグラス。本邦初公開で「美の巨人たち」の題材となる。 |

*2 松や船のモチーフ
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小川三知の作品にはこのモチーフが使われることが多い。大正中期から昭和にかけてこのモチーフが多いのは、三知の影響と思われる。それ以前のステンドグラスには、主にアールデコデザインが多い。
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*3 いつのまにか裏に
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田辺さんは多方面からステンドグラスを見るため、気が付くといなくなることも。動きは非常にすばやい。
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*4 ラファージ式
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微妙な色、テクスチャを表現するために、裏にガラスを二重三重に重ねる技法。これはティファニーのステンドグラスにも確認できる技法であるが、小川三知は帰国後、ラファージの工法として紹介している。
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*5 ココモ
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アメリカのステンドグラス用ガラス板メーカー。その歴史は古く、ティファニーが愛用していたオパールセントを製造し、現在も老舗メーカーとして存在している。色は昔と変わらないが、テクスチャは変わってしまい、戦前と同じテクスチャはなかなか見つからない。量産機械化のせいか。
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*6 ハンマードグラス
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キャセドラルグラスの一種。表面に槌(ハンマー)で叩いたようなテクスチャ(表面模様)があるガラス。
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*7 海の色
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海の色は、水道の水と同じく、元々無色透明である。青く見えるのは、空の青が反射するためで、中でも特に波長の短い青や緑といった光は水の中で拡散され、人の目に認識されやすい。遠浅の海などエメラルドグリーンに見えるのは、白い砂に反射した波長の短い青や緑の光が早く拡散されるからである。
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*8色温度
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光の色はK(ケルビン)という単位で表す。黒体を熱したときの温度による発光色である。太陽は朝日が2000K(黄色)、正午は8000ケルビン(白)、夕方(夕焼け)は1500K(オレンジ)である。
ちなみに電球は2000〜3000K、蛍光灯は5000〜8000K、コンビニなどの青っぽい蛍光灯は8000〜12000K。
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*9 グラニティ
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ハンマードと同じく、キャセドラルグラスの一種。表面はザラザラしている。
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