山本辰雄（宇野澤辰雄）は、慶応三年（1867）福山藩阿部伊勢守の家令山本晴二・トラ夫妻の六人兄弟姉妹の三男として、江戸本郷丸山の江戸下屋敷で生れた。父晴二は勝海舟らと親交があり、明治八年創立の誠之子小学校 （東京都文京区）創設に加わり与力のあった人である。長男金一は三菱造船の草分けの技師として活躍した。二男鑑之進は東京築地の工手学校（後の工学院大学）卒業後、辰野金吾のもとで東京大阪方面の近代建築の現場監督として活躍し、のち住友本店臨時建築部に入所する。鑑之進が係わった工事に、日本銀行本店、東京駅、日本生命の旧館〔大阪府東区）等がある。やがて鑑之進は独立、山本鑑之進工務店を興しその事業は藤木工務店へと受けつがれてゆく。弟晴五はS家の養子となり、東京帝国大学工学博士S晴五として火薬の研究開発にたづさわった。
　明治十四年（1881）東京職工学校が設立され、翌十五年蔵前で授業が始まった。辰雄は同十六年機械科に入学、勉学に励んでいた。そんな辰雄に大きな転機が訪れる。